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日出処の猫

小説「五分後の世界」は、ストラヴィンスキーの「春の祭典」のように・・・

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小説「五分後の世界」は、ストラヴィンスキーの「春の祭典」のように・・・

村上龍の小説「五分後の世界」は、1945年の終戦後に出現したもう一つの日本が舞台です。広島・長崎以外にも小倉・新潟・舞鶴にも原爆を投下されたこの日本は、侵略と虐殺により人口は26万人にまで減少。生き残った日本人は「アンダーグラウンド」と呼ばれる高度な地下都市を建設し、最先端科学技術と世界最強の軍事組織をよりどころに、今も誇り高き「日本国民」として、アメリカを中心とした国連軍とゲリラ戦を繰り広げています。無謀だった大東亜戦争の反省から、科学的な聡明さとプライドを身につけた「日本国民」は、生き延びることを最優先に戦い続けます。一方、戦うことをやめ、日米どちらにも隷属して卑屈な姿を見せる「非国民」と呼ばれる地上の日本人が対比的に描かれます。


「五分後の世界」は、その描写において必ずしも心地よい「読み物」ではないかもしれません。書き出しからの途方もない肉体的な不快感、不安感、そして延々と続く戦闘シーンでは吹き出す血と壊される肉体が容赦なく描かれていきます。ロボットかと思っていたエヴァンゲリオンから吹き出す大量の血を見て、エヴァが人間のDNAを持ち、「エヴァ」が自分と地続きの生身の物語であることを知るように、「五分後の世界」は極限状況を描くことで徐々に読むものを侵食していきます。その混沌の中にあって「日本国民兵士」の残酷なまでの明晰さ、強さはむしろ涼やかに際立っていきます。


読み始めは辛く、しかし読み終えると世界が一変してしまう。そういう体験はなかなかできるものではありません。音楽でいうとストラヴィンスキーの「春の祭典」がそんな感じだったでしょうか。当初、音楽だけを聴いて、複調による不協和音と変拍子が入り乱れるリズムに不快感しか感じなかったのが、ある時バレエとともに見ることでその真価に気付いた瞬間!世界が一変し、「春の祭典」が突如大好きな作品に変わりました。「5分後の世界」は1994年に書かれた作品ですが、その頃も今も変わらず日本は、この作品に何処へどう進むかを問いかけられている気がします。

五分後の世界 (幻冬舎文庫)

ベジャール・バレエ/東京バレエ団 「ペトルーシュカ「春の祭典」 [DVD]

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