当時死病だった肺結核を患いながら欧米を遍歴していた中村天風は、インドのヨガの哲学者から「たった一つの大事なことをお前は気がついていない。それがわかればお前は助かるんだよ。だから、俺について来い」と言われて感動し、即座に彼の弟子となり、ヒマラヤの麓へと向かう・・・
「天風先生座談」より・・・このとき、あなた方ならどうだろう。ご親切にありがとうございますが、失礼ですが、あなたはどういうおつもりで、重い病で死に目に近くなっている私を、助けてくださる気におなりになったのですか。これはたいてい、誰でもが、心の中に出てくる質問でしょうね。それから、次に出てくる質問は、これからどこへ連れて行くおつもりなんです。これももちろん、ききたいことですわね。それから第三にききたいのは、いったい、どんな方法で私をお助けくださるんですか。この三つの質問は、そういう場合に誰でも心の中に湧いてくるでしょう。それを私はしなかったのであります。
なぜしなかったかという理由は、私は釈明する何ものも持たない。ただ、質問する気になれなかったから、しなかった。言下に私は、「サーテンリー、」と言ってしまったのです。なぜサーテンリーと言ったか、どうしてそんなことを言ったのか、あのときの私の気持ちというものは、私自身がわからない。思うに、その人の申出に対して、非常な感動を受けたに違いないのであります。(つづく)

中村天風氏の講話の中から宇野千代氏が構成し著した「天風先生座談」